それでも、探し続ける
「中にワイヤーが入っとる鍋つかみ探しようるんじゃけど、ここじゃなかなか売ってないんよねー。見つけたら買っといてくれん?前に使ったことあってから、あれってほんまに手が熱くないんよ。」
当時テネリフェ島に住んでいたニトロ。食べることが大好きな彼女は作るのもまた大好きで、息子たちが好きなチキン南蛮や、自分が好きなエスニック料理、義兄が好きなバクラヴァなどを毎日せっせと作っていた。
プロのシェフが使うようなミトンでなぜにそこまで熱いものを持ちたかったのかは今となっては知る由もないが、欲しいのならばとキッチン用品のお店をのぞくたびに探していた。
あれから12年。
去年の11月、男手ひとつで息子たちを成人まで育て上げたニトロの夫も天へ旅立ち、月日は流れ、何もかも変わったような、でも何も変わっていないような、そんな日々。
いまでも、キッチン用品のお店に入ると、ワイヤー入りのミトンを探してしまう。
もう、渡す相手はとうにいないのに。

